東京歌壇のうた
- 2025年12月29日
- 読了時間: 6分
東京新聞 東京歌壇 選者:東直子さん
掲載していただいた短歌一覧です。
✶2021年
1月17日
足の裏からあたたかいが吸われてつめたい私だけが残った
1月31日
若いねと言われるけれど私には歴史を妬むときがあります
2月28日 特選一席
残業をやっつけてきた僕はもうホットミルクの膜も押せない
5月23日 特選一席・月間賞
この町のどこに隠れていたのかな塾の光にたくさんのチャリ
5月30日
棒立ちでシャワーがお湯に変わるのを待ち続けてるヘンピな時間
11月28日
深海の魚をみている傍らでわたしはあなたの凪をみている
12月26日
もういない作者だと知りあとがきを手紙のように読み返している
✶2022年
1月16日 特選一席
片付けた部屋は隅まで暮れやすく荷造りをする背中は綺麗
5月8日
いもうとから生まれる湯気はじわじわと鏡のなかのわたしを隠す
7月10日
花首が折れてしまった薔薇のよう私を消した小会議室で
7月31日
旅先のテラスデッキが足音で波立つ きみのペリエまぶしい
8月21日 特選一席・月間賞・2022年度年間賞
輪になって踊ってたころわたしたちちいさな約束で生きていた
10月23日 特選一席
私にも誰にも言えないことがあると微笑まれてから変わる水圧
10月30日
僕の星屑になりたい混じりたいあらゆる臓器光らせながら
11月20日
薔薇の棘をほきほきと折るいもうとを視界の浅いところでとらえる
12月11日 特選二席
ああ、きっと祈りを終えてきたんだろう耳の後ろが小雨のにおい
12月25日
寝不足のまぶたのように張り付いた落ち葉の道をびたびた歩く
✶2023年
1月8日
お薬の匂いになって帰ってくるきみが嫌で、嫌で抱きしめる
3月12日
武道館当たったよって通知 もう一度光らせる 夜が近くなる
3月19日
最初まで戻せばあなたが笑ってるとこから動く なんで泣いてる
3月26日
約束を守れなかった日に食べた桃缶のシロップのその仄光り
4月23日
ホワイトボードひっくりかえしてまぶしいな浜の名前を決める会議で
5月14日
失ったものを互いに打ち明けて寄る辺 サービスエリアのすみで
6月11日
あの夜が僕にあるからだいじょうぶ 黙劇みたいに流れる車窓
7月9日
挟んでたことを忘れていた栞みたいに街できみを見かける
7月16日
さみしいとうすく光るって聞いたから明かりをつけずに迎えにいくね
7月30日 特選一席
停電をした寝室で好きな詩を教えてもらった わたしの白夜
8月20日
試合を観る人を見ている感情の消失点ってどこなんだろう
9月17日
赦されたい心で乗った地下鉄の吊り革が夜じゅうをゆれてる
10月8日
降りはじめたことに気付いて閉じていく窓 深い海に行ける気がする
10月15日
イーゼルを端に片していく午後の背中に声はかけられなかった
11月5日
夜ももう遅いファミレスの角っこで雨にゆがんだ手紙を読んだ
11月19日
雨に濡れたちょうちょがわたしの内側にびっしりといるような曇り日
11月26日
なりゆき、とこぼしてあなたが引いていくカーテン 対岸まで運ばれる
12月3日
ラスト一ページをゆったり読み進めやがてわたしに現れる島
12月17日
寄り添えば舟はわずかに傾いて生まれた波を長くながめた
12月24日
のど飴を含む仕草のうつくしく駅のまひるに時間は過ぎる
✶2024年
1月14日
路地裏の夜をはじいて傘のなか通りに出るまで無言でつづく
2月28日
めくるたび空気が風になる図鑑の重さをうれしく抱えて帰る
2月4日
百年を流れた川がわたしにも巡って水面に鉄橋を映す
2月11日
あなたという星を眺める世界からそっと剥がれてゆける気がする
2月18日
春を裏返すみたいに問われてるわたしに回送電車が走る
2月25日
固いから預かったマーマレードジャムかぱりと開いて鼻にあかるむ
3月10日
食パンのあたまのおだやかな坂をぼくだけの帰り道にしたいな
3月17日
鏡のなかのあなたにひたりとくちづけるときにわずかにする雪のにおい
3月24日
ためらいなく眠りたいとき抱きしめる夏のたたみのにおいの犬を
4月21日
文字と文字繋げて言葉にするときの淡い手ごたえがぼくの宝石
6月2日
髪の毛を切ってもらっているときにわたしに落ちるわたしの小雨
6月9日 特選一席
誰ひとりいない気がする夜のにおい 貝がカタリ、と開いて鎮まる
6月30日
高速バスのみんな寝ていてカーテンのすきまから見た長い夕焼け
7月7日
雨音に目を覚ます夜 栞紐の寝ぐせを撫でてふたたび眠る
7月14日
消えにくい炎のような紫陽花が胸に あなたの心音にふれたら
8月4日
かたくなに歩こうとしない犬みたい置いては行けない心がひとつ
8月18日
続けるということがお守りになることの光のようなあなたの背筋
8月25日
放課後の校舎の色だ古本はページの分だけ時間を染めて
9月22日
眠れない夜にひとつの火をもらうその火の揺らぎをわたしに移す
9月29日
帰る星を失くして甲州街道をふたり歩いた蒸す夜のこと
10月20日
サランラップぬちぬち剥がす感情に名前がついてしまわないうちに
10月27日
独立した言語のようなくちづけを 植物園のガラスドームで
11月10日 特選一席
あきらめたことを指折り数えた日あきらめがびしょびしょに光りだす
11月24日
砂浜に舳先を乗り上げるように古い約束がわたしに留まる
✶2025年
1月5日
この夜の救命ボートめく音楽ちいさな波で進んでいける
1月12日
入ってみた本屋で見つける一冊のようにきみの方言がうれしい
2月9日
漂流、と思う ひとくち口にした水がほどなく熱の身体に
2月16日
わたしにも在廊日があり背の高い鏡を磨くだけの一日
3月2日
くちびるを離れて声は花びらのようでふたりの間に落ちた
3月16日
投函を終えてもうすぐ心臓に透明な待合室ができる
3月23日
鍵穴の中で眠っていたのかと思うほど春の丈夫な寝癖
4月13日
花筏で隠れる水底 仕方ないかもね、と浅く微笑まれるたび
4月20日 特選一席
ゆるやかに進む廃品回収の軽トラックが乗せていく春
6月15日
残業をぐいっと終えて夏前の風に濡れながらひとり歩いた
7月6日
古書店に本を数冊持っていく夜空に星を還すみたいに
7月20日
水をやる感じで光を撒いてますじきに音楽が綺麗に咲きます
7月27日 特選一席
横髪がなびくのを目で追いかけた先の正午に港が見える
8月3日
旅先の午後にいるって感じてる乗り込んだタクシーのラジオに
8月31日
撫でられにきた黒猫の背を撫でる暮れていくようにねむるのを見る
9月14日 特選一席
寝るまでのしりとりで語彙を渡し合うふたりの船宿みたいな夜に
9月21日
弱ってるなあって思うへんてこなダジャレばっかり思い浮かんで



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